演題 1「虚血性心疾患のステント治療の現状 ~治療後の病診連携で必要なこと~」
演者:東住吉森本病院 循環器内科 部長 坂上 祐司
演題2 「最近の心房細動アブレーショの進歩」
演者:大阪急性期・総合医療センター 不整脈科 部長 古川 善郎
演題3「大動脈瘤の低侵襲治療」
演者:医療法人 警和会 大阪警察病院 心臓血管外科 部長 白川 幸俊
【特別講演】
「慢性心房細動によって生じる房室弁逆流の外科治療 疾病概念・抗凝固および低侵襲治療にむけての取り組み」
大阪市立大学 心臓血管外科 教授 柴田 利彦
特に印象に残った、特別講演の慢性心房細動によって生じる房室弁逆流について
房室弁には僧房弁と三尖弁がある。
僧帽弁逆流症(MR)は放置すると、左心系の容量負荷を引き起こし、左室機能低下をもたらす。また、MRは左房圧を上昇させることで左房拡大、肺高血圧となり、肺うっ血を増悪させることでうっ血性心不全の原因となる。
MRは、器質性と機能性に分類される。機能性MRとしては虚血性心筋症、拡張型心筋症が一般的な原因として知られる。左室拡大により弁輪が拡大し、僧房弁複合体のジオメトリーが変化することでMRが生じる。
今回は心室拡大に由来するMRではなく、心房拡大に由来するMR、すなわち心房性機能性MRについての概説。
心房性機能性MRは、左室機能低下はないものの、長期の慢性心房細動に伴い、左心房が拡大することで生じる。慢性的な心房細動で左心房・弁輪が拡大し、僧房弁複合体のジオメトリーに変化をもたらす。具体的には、心房が拡大することで弁輪が拡大し、僧房弁の後尖が外側に押し出される。前尖は後尖と重なろうとして後尖がある方向に伸びようとするが、腱索に引っ張られてうまく後尖と前尖が重なることができなくなる。すると逆流が生じてしまう。心房細動では右房も同様に拡大するため、三尖弁閉鎖不全症も合併する。
講演でも確認されていたが、心房と心室は線維輪と呼ばれる結合組織によってつながっているが、心房筋と心室筋の筋層はつながっていない。線維輪は心房と心室を結び、この位置に尖弁や動脈弁がある:(確かに昔そう習った...。)
慢性心房細動によって、心房筋不全に陥り、両側心房が心室とは独立して拡張する。それにより、心房性機能性僧帽弁逆流症と三尖弁逆流症が生じて心不全にいたる病態が存在すると柴田先生グループは考えておられ、大阪市立大学 心臓血管外では積極的に外科治療を行っている。
慢性心房細動に由来する心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症に関しては、手術適応基準ははっきりとしていない。そのため手術のタイミングが遅れること多いとのこと。心房細動に対するカテーテルアブレーションが現在のようにメジャーでなる以前は、抗凝固治療とレートコントロールで経過をみていた。長期間慢性心房細動の状態で内服管理してきた患者さんに関しては、アブレーションの適応がないと判断されることが多い。こういった患者さんが薬剤抵抗性の心不全にいたった場合には、僧帽弁形成術だけでなく、三尖弁形成術を合わせて施行することが重要とのことでした。
また大阪市立大学 心臓血管外では数センチの創部で手術を行う小切開手術(MICS)や、同じく小さな創から内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、通常の内視鏡器具では不可能な自由で繊細な動きが出来きるダヴィンチ(da Vinci Surgical System)を使用して、僧帽弁形成術、三尖弁形成術を行っている。また、冠動脈バイパス術にもダヴィンチを使用しているとのことでした。
- 2014年に発表された弁膜症に関するアメリカ心臓協会及びアメリカ心臓病学会ガイドラインでは、機能性僧帽弁逆流単独に対する手術は、心不全症状が強くても、クラスⅡb程度の推奨度:積極的ではない、となっています。アブレーションの適応のない患者さんがいろいろな要因で将来的に心不全にいたる可能性があると考えています。今後、アブレーションの適応のない慢性心房細動を有する患者さんが心不全になった際の治療オプションとして大変参考になる講演でした。